【内田雅也の追球】アジサイも“超変革”も土作りが大切

[ 2016年6月30日 10:40 ]

甲子園球場近くの「アジサイの名所」網引公園ではアジサイが雨に光っていた

 雨に誘われ、甲子園球場にほど近い網引(あびき)公園を訪ねた。「アジサイの名所」として知られる。西宮市が1986年に1000本を植え、育ててきた。色鮮やかな花々が雨に光っていた。

 アジサイは土壌によって花の色が変わる。一般に酸性ならば青、アルカリ性ならば赤となる。花を咲かせるには、やはり土が大切なのである。

 野球は、特にシーズンが長いプロ野球は、農業や花作りにたとえられる。土を耕し、種をまき、水をやり、花を咲かせ、実を結ばせる。美しい花を咲かせるには土作りが大切だ。アジサイのように花の色が違ってくる。

 今の阪神ではないか。新監督・金本知憲を迎え「超変革」を打ち出している。そのためにはまず土壌、土作りからだ。

 開幕から積極的に若手を登用してきた。登用する若手も入れ替え、試行錯誤の連続できた。ただし、現状は借金6の5位に沈む。首位・広島とは大差がついている。

 「それはそうだけどね……」甲子園球場に戻り、球団事務所を訪ねると、球団社長・四藤慶一郎に会った。DeNA戦の雨天中止決定に「残念だなあ」と漏らし、現状のチーム状況について雑談となった。「今からだと思うよ。これまでいろいろと試してきて、これから腰をすえて戦おうとしているように思う」

 金本が「まだまだあきらめていない」と話しているように、四藤もあきらめてはいない。むろん優勝についてである。

 つまり、今季の阪神は土を耕し、種をまき、さらに花も咲かせようとしているわけだ。欲張りで拙速との批判もあろうが、この程度の気概がなければ阪神の監督はつとまらない。「まずはAクラス」などと悠長な姿勢では熱狂的なファンが待ってはくれない。

 思えば、28日は作家・林芙美子の命日だった。51年、心臓まひで急逝、47歳だった。好きだった花から「アジサイ忌」という。生前、色紙に好んで書いた短詩がある。<花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき>。女性を花にたとえ、自らの半生をうたった。

 阪急や近鉄を初優勝に導いた西本幸雄は選手たちに語りかけた。「長い人生で、野球ができる期間は短いんだぞ。この青春時代を実りあるものにしようじゃないか」

 時間は、あるようでない。苦しいことも多い。美しい花を咲かせるために、いま、やるしかないのである。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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