【内田雅也の追球】6回突如崩れたメッセ 0・001秒の誤差

[ 2016年6月29日 10:45 ]

<神・D>貫禄の投球を見せていたメッセンジャーだったが…

セ・リーグ 阪神5―3DeNA

(6月28日 甲子園)
 好投していた投手が突然乱れることがある。前触れがあったわけではなく、突如として崩れる。わずかな乱れが大きな失点につながる。あの変調は何なのだろう。

 この夜の阪神先発ランディ・メッセンジャーである。5回まで1人の走者も許さず、9三振を奪っていた。ほのかに快挙の期待もあった。何しろこの日6月28日は藤本英雄(巨人)がプロ野球史上初の完全試合を達成した記念日(1950年)という因縁もあった。

 ところが6回表、先頭のエリアンに四球を与えて完全試合が消え、場内にため息が広がってからおかしくなった。4連打に自身の悪送球もあり、3点を失ったのである。

 一体何だったのか。体調や投球フォーム、心理面に何か変化が起きていたと考えるのが普通だ。だが、この原因を突き止めるのは難しい。

 試合後、投手コーチ・香田勲男も「僕にも説明できません」と正直に話した。「投手は突然乱れることがあります。それが何なのか……」

 メッセンジャーは走者がいない時はノーワインドアップで投げる。6回にきて初めてのセットポジションで微妙にフォームがなじまなかったか。5回終了後、グラウンド整備で数分間の空白があり、リズムを失ったか。4回表から降っていた雨で足場が緩んだか、ボールが滑ったか。

 「一つはやはり四球ですね。彼に油断はありません。回の先頭打者を取らないといけない、と強く思いすぎて四球を与えてしまった。すると今度はストライクがほしくなる。どうしても真ん中に集まる。ヒットを打たれた球は皆、ストライクなんですよ」。確かにボール球でも良かった場面でフォーク、スライダーが甘く入っていた。

 この投手突然の乱調を自称「野球狂」の心理学者マイク・スタドラーが『一球の心理学』(ダイヤモンド社)で分析している。<望ましいのは何千回も繰り返してきた投球フォームをいつも通りスムーズに行うことです>とした上で、繊細さをみている。<例えば、ボールをリリースするタイミングが1000分の1秒速くなりすぎただけでも不正確な球につながってしまいます>。

 0・001秒の誤差の原因は力みや四球への悔恨といった精神面か。ただ、連敗脱出へ「相当な気合だったのは間違いない」(香田)と殊勲者をたたえた。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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2016年6月29日のニュース