クールな表情に隠した気遣い…涌井 9年前の誕生日プレゼント

[ 2016年6月25日 09:40 ]

2007年5月8日、楽天戦で9回5失点完投で、両リーグ単独トップの6勝目を挙げた西武・涌井

 引っ越しをすると思い出の品に出くわすことがある。先月、荷物を整理していると昔の写真などを収納している箱から一つのボールが出てきた。当時は西武だった涌井(現ロッテ)のサインボールだった。9年前の記者の誕生日である「07・5・8」と「六勝目」という文字も書かれていた。

 荷物を整理する手を止め、しばらく頭の中で記憶を呼び戻す。当時、30歳だった記者は西武を担当していた。涌井は高卒3年目で、まだ20歳だった。横浜高の先輩でエースだった松坂(現ソフトバンク)が同年からレッドソックスに移籍し、その穴を埋めるべく奮起した右腕は、4月までに4勝を挙げるなど、順調に白星を積み重ねていた。

 そして5月上旬。福岡遠征中に涌井と食事に出掛ける機会に恵まれた。その席で記者が8日に30歳になることが少しだけ話題となった。数日後、記者の誕生日である5月8日はフルスタ宮城(現コボスタ宮城)での楽天戦。先発して見事に完投で6勝目を挙げた涌井にコメントを求めに行くと「はい、これ」と無愛想に勝利の記念球を投げられた。「誕生日プレゼント」と認知するまでに数秒を要した。うれし涙を堪えながら「せっかくだからサインしてほしい」と懇願。宝物となった。

 振り返れば内容の濃い1年だった。シーズン開幕前には「裏金問題」が発覚。チームも26年ぶりのBクラスとなる5位に低迷し、当時の伊東監督が退団した。そんな逆風が吹き荒れた中、孤軍奮闘した涌井は17勝で最多勝を獲得。その後は中継ぎへの配置転換など不振に苦しんだシーズンもあったが、ロッテ移籍2年目の昨季はプロ通算100勝にも到達するなど日本ハムの大谷と並ぶリーグ最多の15勝を挙げた。今季も3、4月に5勝を挙げ、自身7年ぶりとなる月間MVPを受賞。その後は白星に嫌われたが、17日の巨人戦(東京ドーム)では完投で菅野に投げ勝ち、49日ぶり白星となる6勝目を挙げた。

 今月21日。その涌井が30歳となった。先日、QVCマリンで9年前のサインボールの写真を見せると「そんなことありました?どこで投げたの?ふ~ん…」。シャイな性格でマウンドと同様に報道陣への対応もクールな涌井がくれた記念球。いつまでも大切にしたい。(記者コラム・山田 忠範)

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2016年6月25日のニュース