イチローの秘めた決意 50歳まで現役でメジャー安打だけでローズ超え

[ 2016年6月17日 05:30 ]

<パドレス・マーリンズ>9回、二塁打で世界最多の4257安打を放ち、声援に応えるイチロー

ナ・リーグ マーリンズ3―6パドレス

(6月15日 サンディエゴ)
 世界でイチ番!マーリンズのイチロー外野手(42)が15日(日本時間16日)のパドレス戦に「1番・右翼」で先発出場。初回に捕前内野安打で、元レッズの英雄ピート・ローズが持つ大リーグ記録の4256安打に日米通算で並ぶと、9回の第5打席で右翼線二塁打を放ち、4257安打(日1278、米2979)とした。次に目指す金字塔はメジャー通算3000安打だが、孤高の天才打者はさらに「その先」を見据えている。

 歴史的瞬間は3点を追う9回2死一塁で訪れた。パドレスの守護神ロドニーの83マイル(約134キロ)のチェンジアップを思い切り引っ張った。糸を引くようなライナーが右翼線に弾む。今季6本目の二塁打は、日米通算4257安打目。日本が誇る天才打者イチローが、米国が生んだ伝説の安打製造機ピート・ローズをついに抜き去った。

 ペトコ・パークは06年の第1回WBC決勝でキューバを下し、世界一になった思い出の球場。大型ビジョンに「4257」の数字が表示されると、ファンは総立ち。味方だけでなく、パ軍の選手も手を叩いて祝福した。ここでようやくヘルメットを取り、場内の全方向へ頭を下げた。「ああいう反応をされるとね。凄くうれしかった」。ただ、笑顔はなかった。

 王手をかけて臨んだ試合。ローズに並ぶ4256安打目は「らしい」安打だった。初回先頭で、ペルドモのツーシームを強振すると、ボテボテの当たりが捕手前に転がる。一塁に送球したが、背番号51は一塁を駆け抜けた。この試合最初のスタンディングオベーションの時も塁上で表情を崩すことはなかった。

 淡々と振る舞った理由を試合後の会見で明かした。「ここにゴールを設定したことがないので実はそんなに大きなことという感じは全くしていない。ピート・ローズが喜んでいれば(自分の気持ちも)全然違うんですよ。でもそうじゃないと聞いている。だから僕も興味がない」。日米通算の記録に関して、さまざまな議論があるのは知っている。「どうしたってケチがつくことは分かっている」。とはいえ、敵地のファンの祝福を無視することはできない。「2本目は(何も)しないことが僕の矜持(きょうじ)だというところが少しありましたが、ああされるとね」と笑った。

 負けず嫌いの性格。少年時代から「不可能」と言われれば言われるだけ、努力を重ねてきた。「小学生のとき、近所の人から“あいつプロ野球選手にでもなるのか”といつも笑われた。アメリカに行くときも“首位打者になってみたい”(と言って)そんな時も笑われた」。そのどちらも実現させた。メジャーでは04年にシーズン262安打の最多安打記録を樹立し、前人未到の10年連続200安打も達成した。

 そのイチローが「この3年はちょっときつかった」と正直に打ち明けた。ヤンキース2年目の13年に打率3割を切り、マーリンズに移った昨季は打率・229に終わり「屈辱的」とも言った。今季も立場は控え外野手。だが、メジャー現役最年長野手はどんな状況でも準備だけは怠らない。マーリンズパークには初動負荷理論のマシンが8台置かれ、それはマイアミの自宅にも設置されている。「24時間、野球のために時間を使っていますから」。今季は打率・349。全盛期のような鋭い打球が復活した。

 常々、50歳まで現役を続けたいと話す。米野球殿堂入りの目安となるメジャー3000安打はあと21本と、もう目前だ。そのはるか遠く先にあるメジャーの安打数だけでの「ローズ超え」。その可能性を問われ「常に人に笑われてきた歴史、悔しい歴史が僕の中にあって、これからもそれを達成していきたい」と言った。孤高の天才打者が示したプライド。未知の領域に足を踏み入れたイチローの戦いはまだ続いていく。
(サンディエゴ・笹田 幸嗣通信員)

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