神宮球場が「物置き」に 組織委員会が今になって言うとは…

[ 2016年4月29日 09:00 ]

東京五輪・パラリンピック組織委が大会前後の使用中止を要望している神宮球場

 最初に耳にした時、神宮球場が野球・ソフトボールの競技会場になった場合の話だと思った。

 2020年東京五輪組織委員会が大会準備や運営のために五輪・パラリンピックの開催前後、7カ月間の神宮球場借用を求めている問題だ。なるほど、メイン会場となる新国立競技場は目と鼻の先。資材置き場やスタッフの控え室として利用するには最適な施設だ。

 64年の東京五輪の開会式は10月10日。プロ野球は17日前の9月23日に国鉄(現ヤクルト)―中日戦を神宮球場で開催している。開会式の翌11日には野球のデモンストレーションゲームも行われた。大会規模も拡大し、国際情勢も変化している。警備の問題も深刻だ。城下町に例えるなら新国立競技場は「本丸」。その本丸の真横に別の城があれば不都合なのは分かる。だが「今になって言うな!」が本音だ。

 日本野球機構(NPB)を始め、野球界も五輪・パラリンピックの招致に全面協力してきた。その見返りが7カ月の神宮球場使用禁止では、庇(ひさし)を貸して母屋を取られた気分だろう。新国立競技場の建設予定地は当初別の場所だったとはいえ、周辺施設を使用禁止にする必要を知らなかったとすれば、なんともお粗末な話だ。

 東京都は五輪・パラリンピックの招致に東日本大震災被災地の復興まで持ち出した。新国立競技場の建設や大会エンブレムのデザイン変更に神宮球場の借用問題。今後もインフラ整備や外国人観光客を受け入れる宿泊施設の不足など課題は次々に浮上するだろう。

 東京五輪・パラリンピックの開催は希望に満ちた素晴らしい事業だ。ただ、どれだけ想定外の金と時間を無駄にするのか。立ち止まって見回して欲しい。東日本大震災に続いて、熊本を中心に起きた地震被害もまだ収拾がついていない。「あなたたちのために五輪・パラリンピックを招致しました」。ご都合主義で震災復興を掲げた人たちは、今も胸を張っているのだろうか。(記者コラム・君島 圭介)

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2016年4月29日のニュース