センバツ4強・秀岳館2人の「タクミ」原田母「この出会いは運命」

[ 2016年3月31日 10:50 ]

 秀岳館(熊本)にいる2人の「タクミ」の春が、終わった。鍛治舎巧監督のもと全4戦で不動の2番・中堅手を務めたのが原田拓実(3年)だ。「トップスピードになるのが速く、オコエ並み」と指揮官に評される50メートル5秒8の快足が魅力で、部員によると野球メーカーのゼットが昨年12月に来校して測定した30メートル走では高校の野球部で全国1位のタイムを記録という、チーム最速の男だ。

 準決勝・高松商戦では5打数1安打。6回にはセーフティーバントで内野安打を記録。送球がそれる間に二塁進塁を狙ったが惜しくも憤死した。準々決勝・木更津総合戦での初回2死二塁の場面ではライナー性の打球を前進しスライディングし好捕。9回2死からのサヨナラ逆転勝ちに貢献していた。

 「前まではスタンドで『タクミー!』と叫びまくってたけど高校では気まずくて。監督さんがビクってなったらいけないし。でも、この出会いは運命だと思っています」と言うのは母・尚子(ひさこ)さん。小学1年から在籍した軟式野球・朝日少年野球ではスコアラーを務めながら、息子の成長を見守ってきた。

 「小学校、中学と常にリレーの代表で全員を抜き去ったあとスライディングしてゴールする、お調子者でした」と母は振り返る。妹の菜那さん(16)は兄の影響もあって佐賀・武雄高校野球部のマネジャーになった。自慢の兄の勇姿を、アルプスで見届け続けた。
 春のメンバー18人のうち、唯一の中学軟式野球部出身。武雄中時代は足が速すぎて陸上部、サッカー部に借り出され「タクミを早く返して」と部活動内で取り合いになった人気者だった。その俊足を鍛治舎監督は、見逃さなかった。人生初の外野手にコンバートし、先発で起用し続けた。

 1回戦・花咲徳栄戦の前日。尚子さんは「甲子園に連れてきてくれてありがとう」と伝えたが「優勝してから言って」と言われ、成長を感じ取った。4年前に両親は離婚。女手一つで子どもたちを育ててきた。忘れられないのは秀岳館野球部への入寮前日。自宅のテーブルの上に手紙が置いてあった。

 「僕を秀岳館に入学させてくれて、ありがとう。必ずレギュラーを取る。でもお母さんのご飯が、食べられない。寂しいな~」。母は号泣した。

 猛打を誇る「鍛治舎マジック」での初采配は、4強で終わった。ただ「巧と拓実」の名タクト、快速の信頼関係は分厚い。支えてくれる人の思いを背に、必ず夏に戻る。

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2016年3月31日のニュース