今後ブームになる?龍谷大平安の新しい試み「ダブル主将制」

[ 2016年3月22日 08:40 ]

龍谷大平安は市岡(左)と橋本の2人が主将を務める

第88回選抜高校野球大会1回戦 龍谷大平安7―1明徳義塾

(3月21日 甲子園)
 3月20日から開幕した第88回選抜高校野球大会。アマチュア野球に詳しいライター・菊地高弘氏が大会中に気になった、龍谷大平安(京都)の「ダブル主将制」についてリポートする。

 龍谷大平安は全国的にも珍しい、「ダブル主将制」を採用しているチームだ。

 2015年の夏、先輩たちの代が京都大会4回戦で敗れ、新チームが発足するときのことだった。チーム内の誰もが「新キャプテン」の人選を気にしていた。

 二塁手のレギュラーである久保田悠は「橋本(和樹)か市岡(奏馬)のどちらかだろうけど、市岡はピッチャーだから、負担を軽減させるために橋本かな?」と考えていた。橋本は長打力のある右のスラッガー。決して口数は多くないが、高い技術でチームを引っ張ってくれるだろうという期待があった。

 一方、マネージャーで記録員の三尾拓也は「市岡か橋本だろうけど、クラス内でも目立っているし、キャラ的にも市岡かな?」と思っていた。市岡は最速で140キロを超えるストレートとキレのあるスライダーを武器にする左腕。自分の考えをハキハキと明朗に話せる市岡が主将にふさわしいと感じていた。

 ところが、原田英彦監督の決断は思いがけないものだった。キャプテンを市岡と橋本の2人、つまり「ダブル主将制」にするというのだ。

 原田監督は昨秋、2人を主将に据えた意図をこう語っている。

「本来なら橋本なんでしょうけど、市岡は自分のことで精一杯になってしまう性格で、自覚を促したいという思いがありました。それと今は、『チーム内で嫌われたくない』という選手が多い。それなら、2人制にして、助け合うほうがいいんじゃないかと、初めて『ダブルキャプテン』を採用しました」

 良く言えば「負担の分散」、悪く言えば「絶対的なリーダー不在」とも取れる。橋本は昨秋の時点でこう語っている。

「キャプテンになったのは、自分でもびっくりしました。平安は伝統のあるチームなのでうれしいと思う反面、自分が背負うには重すぎるというプレッシャーもありました。自分が入学したときのキャプテンの河合さん(泰聖/中央大)は監督にキツいことを言われても平然としていて、すごいキャプテンでしたから。正直言って、市岡とのダブルキャプテンはありがたかったです。お互いに良きライバルとして高め合いながら、助け合えたらと思っています」

 一方、市岡はこんな思いを抱いていた。

「自分は小学校、中学校とキャプテンだったんですけど、『2人制』というのは今まで聞いたことがなかったので、『どうなるかな?』という不安はありました。でも実際にやってみると、どちらかがダメでもどちらかがカバーできるし、気持ちよく練習できることに気づきました」

 龍谷大平安は、昨夏時点で春夏合わせて甲子園出場72回、優勝4回、通算96勝を挙げていた。創部100年を超える歴史ある名門校の主将という責務の重さは、想像を絶するものがある。そのプレッシャーを1人が負うのではなく、2人のリーダーで支え合う。それが龍谷大平安の新しい試みだった。

 練習では市岡がチームを引っ張り、試合では橋本が中心になる。また、試合前のミーティングでは、言語能力の高い市岡がチームを鼓舞して、橋本が追随しながら補完する。ダブル主将制は、思った以上にうまく機能した。

 その結果、昨秋は京都府大会で優勝し、近畿大会では準決勝で滋賀学園に大敗したものの、ベスト4進出。市岡はエースとして、橋本は4番打者としてチームに貢献し、センバツ出場切符をたぐり寄せた。

 21日の明徳義塾(高知)との初戦では、市岡が被安打6、失点1で完投勝利を挙げ、橋本は決勝本塁打をレフトスタンドに放り込んだ。試合後には報道陣が集結する「お立ち台」にダブル主将が並ぶ異例のシーンも見られた。「地位が人を作る」という考え方もあるが、ダブル主将制は時代にマッチした合意的な方法なのかもしれない。

 ただし、1つの組織に2人のリーダーがいる弊害もあるだろう。久保田はこんなことを口にしていた。

「今はいい状態で回っているんですけど、キャプテンが2人いる安心感から『どちらかが考えればいいだろう』というスキが生まれる可能性があります。それは原田監督から言われていて、2人だけではなく、ちゃんと1人1人がチームのことを考えることが大事だと思います」

 果たして、高校野球界に今後「ダブル主将制」は広がっていくのだろうか。龍谷大平安の快進撃によっては、一大ブームになる可能性を秘めている。

 ◆菊地 高弘(きくち・たかひろ)1982年生まれ、東京都出身。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。プレーヤー視点からの取材をモットーとする。近著に「菊地選手」名義の著書『野球部あるある3』(集英社)がある。

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