センバツ21世紀枠候補・釜石 東日本大震災から5年目の今

[ 2016年1月26日 10:00 ]

 プロ野球界はまもなくキャンプイン。球春の到来を迎えるが、高校野球界にも「春の便り」が届く日が近づいている。第88回選抜高校野球大会(3月20日開幕、甲子園)の出場校32校が1月29日に決定する。今月、東北地区から21世紀枠候補に選出された釜石(岩手)を取材で訪ねた。

 練習を終えると、ホームベース付近に一列に並んだ。日が暮れた真っ暗なグラウンドに力強い校歌が響き渡る。24人の部員はきょうも「試合」に勝利した。昨年4月に就任した佐々木偉彦監督(31)は「練習を常に“試合”と表現します。緊張感を持って1球を大切にしています。校歌は勝たないと歌えません。先日、合唱部の先生から“みんな校歌が上手くなりましたね”って褒められたんですよ」と笑った。

 校歌の中に「鋼鉄(はがね)の意志(こころ)」というフレーズがある。部員はその言葉通り、不屈の精神で未曾有の困難と今も戦っている。2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生した。人口4万人弱の釜石市も被災し、死者と行方不明者は計1000人以上にのぼる。

 今年で震災発生から5年目を迎えた。当時、小学校高学年で被災した現在の部員は、自宅が全壊し、家族や親戚らを亡くした子も少なくない。その時間は心に負った深い傷を少しは癒してくれているのだろうか。受け止め方は一人一人違う。

 菊池勇貴(2年)

 「震災を解せないというか、憎む気持ちはあります。でも震災のおかげで出会えた縁もある。その縁だけは感謝して大切にしたいです」

 岩間大(2年)

 「発生から3週間ぐらいは“時間が戻ってくれれば”と思っていました。でも今は“しょうがない”と受け止めています」

 澤田一輝(2年)

 「仮設暮らしで苦しい思いをしていることはあるけど、その中でも自分のやりたいことができて、幸せに暮らしている。そのことに感謝したい」

 当然、現在も心の整理がつかずに苦しんでいる子もいる。それぞれが悲しみや恐怖、辛い現実を胸にしまい、毎日泥だらけになりながらグラウンドで汗を流している。佐々木監督は言う。「震災のことは特に部員と話しません。被災と野球は別の話。グラウンドに来たら、思い切り楽しんでもらいたいですから」。上手くなりたい。勝ちたい。24人はその一心で前を向き、ここに集う。

 昨秋県大会は準優勝。20年ぶりに出場した東北大会では、東北(宮城)との初戦で2―3で敗れはしたが、延長12回の激戦を演じた。センバツ出場となれば釜石南時代の96年春以来、20年ぶりとなる。釜石ナインは期待と不安を胸に、運命の日を待つ。(青木 貴紀)

 ▼21世紀枠 候補校9校から東(東海、北信越以東)と西(近畿以西)で1校ずつが選ばれ、残り7校から地域を限定せずに最後の1校が選ばれる。釜石が選出されれば、東日本大震災後に同県から初の21世紀枠での甲子園出場となる。

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