間違いのできない1球のため…時間と戦う侍ジャパンのスコアラー

[ 2015年11月13日 10:40 ]

侍ジャパンの村田善則スコアラー=2013年3月撮影

 プレミア12に参加中の日本代表が予選リーグで順調に白星を重ねる。メジャーリーグの不参加で、中南米の各チームは自国のウインターリーグを優先する選手も多く、ほとんどの情報はない。だからといって、データが不要なわけではない。

 巨人の高橋由伸新監督の下でバッテリーコーチに就任した村田善則氏は侍ジャパンのスコアラーとして、相手打者の分析に時間を注ぐ。その時間は1日で20時間近くに及ぶ時もある。「寝る時、食事の時以外は、いつでも映像を回している。歯を磨いている間も見たり…。少しでもバッテリーに有益な情報を渡したいから」。日課だったランニングも封印してまで、データ収集と分析に時間を割いている。

 ある1日の時間割を聞いた。まず前日のナイター後、深夜零時にホテルに戻ると、翌日の対戦相手のデータ分析に入る。就寝は午前3時から4時ごろ。翌日午後1時ごろからバッテリーミーティングがあるため、5時間前の午前8時には起床してデータの整理に入る。ミーティングの2時間前には会場に入り、ホワイトボードに各打者の要点を記す。寝る時以外は頭の中は常に相手国の打者でいっぱいだ。

 少ないデータの中で何を読み取るか。「例えば内角に弱くて、打率1割5分という数字が出ているとする。だけど、それは内角球に対して打者が頭から外して出た数字なのか、打ちにいっての数字なのかでも違う」。数字の裏に潜む確かな情報を得るため、打者の仕草や対応を見る。前の打席の攻めからの連動であったり、1試合につき20回は映像を見返すことになる。たった1度きりの対戦相手であっても、だ。時間は足りない。

 ただ、それだけ準備をしても、村田スコアラーは「本当はデータに頼らず、自分の投球だけで押し切れるのが一番」という。「すべてを頼るのではなく、本当に手詰まりになった時や、ピンチの瞬間に(データのことを)思い出せばいい」。1試合の中でわずか数球しかない「間違いのできない1球」のために、少しでも意味のあるデータを探している。

 この大会が終われば、巨人のバッテリーコーチとしての仕事が待っている。「今もチームのことは気にはなる時はあるけど、今はこの仕事に集中している。たとえ10対9の試合でも、10点目を防いで勝てればいい。勝利の役に少しでも立ちたい」。充血した目をこすりながら、すぐに「準備があるから」と言ってパソコンへと向かった。決勝の21日まで時間との戦いは続く。(倉橋 憲史)

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2015年11月13日のニュース