「投げる金剛力士像」石井貴さんが高校球児に伝える“技術より闘争心”

[ 2015年8月27日 17:22 ]

元西武の藤嶺藤沢・石井貴コーチ(左)は神奈川大会で東海大相模に敗れたナインと握手を交わす

 人呼んで「投げる金剛力士像」。西武での現役時代、石井貴さん(44)は気迫を前面に出す投球スタイルで打者に立ち向かった。今年3月に母校・藤嶺藤沢(神奈川)の非常勤コーチに就任。以来、後輩である高校生を相手に投球技術だけでなく、何より大切な「魂」を伝授しようと奮闘している。

 「野球選手に必要なファイティング・スピリットをね。やっぱりおとなしくて真面目な子が多い。高校生といったって、勝負の世界なんだから」

 丸刈り頭の、ちょっぴりいかつい風ぼう。そんな石井コーチは現役時代から面倒見の良さで知られ、西武では松坂(現ソフトバンク)にも「貴さん」と慕われる兄貴分だった。自身の代名詞でもあった男・石井。プロの厳しい世界をどう生き抜いてきたかを伝えたい。「男の生き様、かな。根本的な“男”としての部分。みんな、(将来も)世間の荒波の中を生きていかなくちゃいけないんだから」。後輩にも、強い気持ちで野球に、そして人生に立ち向かって欲しいと願っている。

 今夏の全国高校野球選手権神奈川大会。藤嶺藤沢は4回戦で、全国制覇した東海大相模に0―7で7回コールド負けした。左腕・小笠原の前に毎回の12三振。石井コーチは試合後、1人1人の選手にどう思うかを聞いて回った。返ってきた答えは「体が大きかった」「僕たちと違う」「凄い」…。「そうじゃない。こっちは“悔しい”という言葉を待っていたのに。大勢の観客の前でパンツを脱がされたようなものなんだから」。屈辱をバネに変える強さ。今でも時間が許す限り、選手個々に自身の経験談などを聞かせる。「技術よりそっちの方が先」と、何より闘争心を植え付けようとしている。

 石井コーチ自身、高校時代に甲子園出場は叶わなかった。社会人・三菱重工横浜に進んで「吐くまで走った」という成果で球速が155キロまで15キロ以上伸び、ドラフト1位で指名されるまでに至った。若さ。成長の可能性は無限。そんな高校生と触れ合う日々を「楽しくやってます。生意気だけど本当に可愛い。もう顔と名前と、性格もつかんだ」と笑顔で話す。

 「新聞にもプロの選手のコメントが出ているし、参考になる。だから“新聞読め、スポニチ読め”って言ってるんだけどね」。自身も読書家である石井コーチはそう笑った。週に1度ほどのペースで訪れる母校のグラウンド。「男」を育てる熱い時間がそこにある。(鈴木 勝巳)

続きを表示

2015年8月27日のニュース