松井稼頭央は単純明快「野球は趣味」純粋さが生んだ金字塔

[ 2015年8月24日 08:00 ]

14日の日本ハム戦でプロ通算400二塁打を達成した松井稼頭央

 この男は、どこまで単純明快なのか。そう言いたくなる。日米だけでなく、日本通算でも2000安打を達成した楽天・松井稼頭央のことだ。今年10月に40歳を迎えるというのに、疲れた表情も見せずに「野球は趣味」と言い切る。その理由を聞くと、こう答えた。

 「趣味と言うと、野球ってなっちゃう。他ないから。野球以外に趣味があって第二の人生を描いていたら別でしょうけど。野球しかやっていない。アホなだけかも分からないし。趣味の多い人がうらやましい」。素直な返答。笑いながら話していたが、その目は真剣だった。超一流選手の松井稼には失礼だが、私も仕事以外に趣味はないから、共感してしまった。

 野球を辞めたいと思ったことも、「(ボーイズリーグで)野球を始めた小3の時と、(中学部に変わった)中1の時だけ」と言う。理由は単純明快だった。「声出し」ばかりで、野球をさせてもらえなかったからだ。

 「マジ、おもんない」。関西人の稼頭央少年はそう思った。中1の時は本当に辞めると言い出し、夏休みは公園で友達と野球をしたり、バスケットボールをしていた。違うチームからの勧誘もあったそうだ。最終的には引き留められ、試合にも出してくれるようになった。確かに指導者からすれば、この才能はほっとおけなかっただろう。

 プロでは一度も野球を辞めたいと思ったことがない。これも単純明快。好きな野球を職業にしているからだ。さらに言えば「お給料はいただいているが、仕事をしている感覚ではない」――。高卒でのプロ入りだったため、社会人として働いた経験もない。バイトをしたこともない。松井稼にとって、プロ野球はやはり「天職」なのだ。もちろんプロである以上、お客さんに対して、常に最高のプレーを見せる義務がある。そのプレッシャー、打てなかった時や守備でミスした時のバッシング、故障との闘いもあり「しんどいことは、当然8、9割ある」と振り返る。残りの1、2割はいいプレーをした時。努力したことが報われれば、その喜びは何倍にも広がって、つらさを上回り「野球は楽しい」に行き着いてしまう。今季、日米通算でプロ22年目を迎えても「野球をやらせてもらっている」と謙虚に言う。純粋な男だ。

 松井稼の話を聞きながら、同じ2000安打を達成した元ヤクルトの宮本慎也氏のことを思い出した。松井稼にとって、PL学園の先輩にあたる名プレーヤー。2年前の引退時に現役生活を振り返り、こう言った。

 「好きで始めた野球ですけど、プロになった瞬間に仕事になった。僕は一回も楽しんだことはない。仕事として真剣に向き合って、19年間やってこられたところが誇れることです」。妥協を許さないストイックな宮本氏らしい言葉だった。同大、社会人のプリンスホテルを経てのプロ入り。高卒出身の松井稼とはプロ入りまでの過程が違うため、考え方が対照的になるのもうなずける。ただ、根底は同じだろう。「自分には野球しかない」ということだ。松井稼は日米通算3000安打まで残り362本。希代のスイッチヒッターの次なる目標は単純明快だ。(飯塚 荒太)

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