ケガなく公平に…全パ率いた工藤監督 気配りと初の「ため息」

[ 2015年7月27日 09:30 ]

オールスター第1戦でベンチから試合を見つめる(左から)ソフトバンクの工藤監督、オリックスの福良監督代行、日本ハムの栗山監督

 広島駅の新幹線ホームは人影もまばらだった。球宴第2戦終了から1時間後。線路の先にはまだ、スタジアムを照らす光が見える。ひいきの選手が全セの勝利に貢献。誇らしげなカープファンの喧騒が、数百メートル先まで押し寄せてくるようだ。

 「やっと終わった。よかったよ。みんな使えたしケガなく終われた」

 声の主は2戦2敗に終わった全パを率いていた工藤監督。驚いたのは昨年11月の就任以来「ため息」など耳にしなかったからだ。疲労の色が濃かった。肉体的なものではないのは分かった。「きのうの夜、これは眠れないなと思った。缶ビール2本。飲んでようやく眠った」。笑顔あふれるベンチは一見、和やかだった。だが、苦しみは想像を超えていたようだ。

 前日17日の第1戦(東京ドーム)で失敗した。9回を投手6人でリレーさせるつもりだった。だが、リードを許した時点で計算は狂った。全パは先行だ。負けている展開では9回の裏はない。気づいた時には7回を森(ソフトバンク)が投げ終えていた。残り1イニングで投手2人。8回には宮西(日本ハム)が2死二塁とした場面で9回の予定だった松井裕(楽天)を投げさせるしかなかった。「申し訳なかった」と指揮官は試合後、すぐに反省の言葉を吐露した。

 失敗から学べる人は一流だ。2戦目は吉川(日本ハム)、十亀(西武)、武田(ソフトバンク)が2回ずつ。その後は1回ずつディクソン(オリックス)、増田、高橋朋(西武)のリレーを選手にも伝えていた。だが、練習中に登板予定の投手を集めると、帽子を取り、親子ほど年の離れた選手に変更を願い出た。

 新たな順はこうだ。吉川(2回)―ディクソン(1回)―十亀(2回)―増田(1回)―武田(2回)―高橋朋(1回)。

 自軍の武田を7、8回に置き、リードされた条件ならば1回に減らし、高橋朋に8回を任せる。いわゆる「調整役」に置いた。気配りは2番手のディクソン。当初、3番手の投手は5、6回を投げる。5回の終わりにはグラウンド整備があり、球宴ではこの時間を利用したイベントも見所。投手が「待ち時間」でリズムを崩さないようにする細やかな配慮だった。

 野手に関しても打席が均等に回るように考えた。「最後、嶋君に打席が回れば完璧だったのにな」。就任1年目。右も左も分からぬままだった。他球団の選手を預かる上で故障防止はもちろんだが「不公平感を与えてはならない」を最優先。球宴の監督と言えばベンチでうちわを片手に談笑するイメージを勝手に抱いていたが、その苦悩は水面の下で足をばたつかせる白鳥のようだった。(福浦 健太郎)

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2015年7月27日のニュース