元巨人左腕との約束果たし「ただいま」と言える場所増えた

[ 2015年7月26日 11:00 ]

巨人・深田打撃投手の実家の居酒屋たいち。左から父・一博さん、母・暢(みつる)さん、深田打撃投手

 5年前の約束を果たせた。静岡駅南口からタクシーで約5分(徒歩25分)の距離にある居酒屋「たいち」。6月26日、静岡・草薙球場で行われたヤクルト―巨人戦の取材で訪れ、雨天中止となった夜に足を運んだ。

 「僕の実家にようこそ」。そう言って出迎えてくれたのは巨人の深田拓也打撃投手だ。チームは2試合を戦うため同25日から現地に2泊。その期間で選手、裏方ら多くの関係者が訪れたという。とりあえずビールで乾杯。10年限りで現役引退し、12年から現職の32歳は「球団職員の方やスカウトの方も静岡に用事があると寄ってくれているみたいです」と感謝する。

 静岡から中京大を経て原監督の第二次政権が発足した06年に即戦力左腕として巨人入り。店主で父の一博さん(56)は大の巨人ファンで「まさか息子が」と驚いたという。通算成績は15試合で0勝0敗、防御率8・03も、1年目の06年11月にファンに鮮烈な印象を残す。日米野球の親善試合だったMLB選抜戦(東京ドーム)で同年の本塁打、打点の2冠王、ライアン・ハワードから空振り三振を奪ったのだ。店内にはその時の写真や原監督のサインなど「お宝グッズ」が飾られている。

 一博さんが他店で10年以上の修行を経て独立したのは35歳だった94年。当時11歳の深田少年は「父は忙しくても僕と向き合ってくれた」と振り返る。夕方、開店前の時間にキャッチボールをしてくれた。連日、夜中まで働いても翌朝の食卓には必ず父がいた。親子の会話が減ることはなく、反抗期もなかった。殴られたのは1度だけ。父に「勉強する」と嘘をつき、友達と遊ぶために家を抜け出そうとしたが、見つかった。「遊びたければ遊べ。でも嘘はつくな!」。父の言葉は人生訓となった。現在は3児のパパでもある左腕は「昔も今も、ずっと父を尊敬しています」と感謝する。

 記者も静岡出身。巨人担当だった10年5月、当時現役だった深田、高木(現2軍サブマネジャー)と新潟県内の居酒屋でわずか3人の「静岡県人会」を開き、ローカルトークに花を咲かせた。その席で「両親が静岡で居酒屋をやってます」と聞き「じゃあ、いつかそこで飲もう」と約束した。

 あれから5年。やっと時間を合わせ来店できた。一博さん、暢(みつる)さん夫妻の人柄を慕い、遠方から来る野球ファンも多いという。一階はカウンター8席と小上がりだけの落ち着いた空間。「ただいま」と言える場所が、ひとつ増えた。(山田 忠範)

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