阪神“無名左腕”が首位浮上の立役者!山本、プロ初先発勝利

[ 2015年7月5日 05:30 ]

<D・神>5回を2失点に抑えプロ初先発で初勝利を挙げた山本

セ・リーグ 阪神7-6DeNA

(7月4日 横浜)
 阪神を3日ぶり首位へ導いたのは実績のない13年ドラフト5位の男だった。4日のDeNA戦(横浜)にプロ初先発した山本翔也投手(26)が5回2失点の粘投。うれしい初勝利だ。結果が出なければクビも覚悟して迎えた2年目。直球の最速が140キロに満たない中、2軍暮らしで磨いた変化球を駆使した力投で勝率5割復帰にも貢献。大混戦のセ界で無名に近かった左腕が輝き、猛虎再出発の10001試合目となった。

 この一戦に懸ける思いがあふれ出た。3者凡退は3回の一度だけ。毎回のように走者を、それも得点圏に背負いながら山本は粘った。1点差に迫られた5回2死。一瞬、快音の響いた筒香の左飛を見届け、拳をグッと握った。94球すべてに魂を込めて投げた。

 「チャンスは今回しかないと思った。何とか気持ちで頑張りました」

 キャンプイン前日、沖縄の選手宿舎の自室で覚悟を決めた。「今年ダメなら終わり。1年間、そういう思いでやる」と。大学、社会人を経た26歳の即戦力入団ながら昨季1軍ではわずか2試合の登板。「年齢的にも即戦力で活躍しないと、この先、自分を見てもらえない」。悲壮感でいっぱいだった。

 開幕1軍を漏れ、4月は2軍でも登板機会に恵まれず焦りが募った。法政大時代もリーグ戦でわずか3試合登板の控え組。社会人・王子で実力を開花させ、プロをつかんだ経験には逆境をはね返す力が宿っていた。

 出番のない時間を前向きに過ごした。シャドーピッチングや体幹強化に黙々と努め、中日・山本昌ら同じ左腕の映像にかじりついた。2軍で精度を高めたカーブでDeNA打線のタイミングを外し、今季から習得したシュート、チェンジアップも駆使。140キロ台に届かない直球を“速球”に変えた。

 友の思いも背負って投げた。王子時代の13年6月。後輩で4番を打っていた真弓竜一さんが急性リンパ性白血病で離脱。ナインは都市対抗予選の前に真弓さんの背番号25を刻んだリストバンドを製作。山本もポケットにしのばせて戦った。

 「入院してるのに病院からメールもくれた。ドラフトにかかる可能性もあった選手。社会人の時は“一緒に戦っている”という気持ちでリストバンドも付けていた。プロに行ってもその気持ちは変わらない」

 今回の初先発を控えた数日前のことだ。休部状態ながらグラウンドで練習する真弓さんの姿を映した動画が本人から送られてきた。いまも自宅に保管するリストバンドとともに勇気をもらった。

 5回で降りた後、勝利の瞬間までは長かった。高校生の頃、母・佐智子さんに「私たちのためにお金を使わなくていい」と言われ、両親の誕生日などにプレゼントした記憶はない。やっと手にしたウイニングボールの贈り先は「両親に…」と決めていた。友に、そして、家族に届ける初勝利だった。(遠藤 礼)

 ◆山本 翔也(やまもと・しょうや)1988年(昭63)10月12日生まれ、福井県出身の26歳。小3で野球を始め、中学時代は武生ボーイズに所属。福井工大福井では1年夏に甲子園出場も登板機会なし。法大では1学年上の二神(現阪神)、同期の加賀美(現DeNA)らの陰に隠れ、リーグ戦3試合で未勝利。社会人の王子製紙(現王子)で才能が開花し、入社から3年連続で都市対抗出場。13年ドラフト5位で阪神入り。今季推定年俸540万円。1メートル83、89キロ。左投げ左打ち。

続きを表示

この記事のフォト

2015年7月5日のニュース