「未完の大器」楽天・中川の“伝説” コールド負けでも敬遠された…

[ 2015年5月25日 11:00 ]

<西・楽>3回1死二塁、中川が中前打を放つ

 5月10日のソフトバンク戦では待望のプロ初本塁打を放ち、ここ4試合4番としてスタメン出場が続いている中川大志内野手(24)。「未完の大器」と呼ばれ続けて、はや7年目。期待の大型スラッガーの高校時代を目撃している野球ライター・菊地選手が、ある「中川伝説」を語る。

 「桜丘高校に怪童がいるらしい」という噂を聞きつけて、愛知に向かったのは2007年の秋だった。

 桜丘は秋の愛知県大会で準々決勝まで勝ち進み、甲子園常連校である愛工大名電と戦うことになっていた。その先発マウンドに上がった大男に、思わずため息が出た。180センチ台中盤でタテにもヨコにも雄大な体躯。「中川大志」という名前が、これほどしっくりくることはないだろう。

 最速140キロを超える剛腕という触れ込みだったが、投球にはあまり魅力を感じなかった。この日、観衆が刮目したのは中川が打席に入った時だった。

 打席にそびえる中川が、さらに大きく見えた。長い腕でとらえた打球は、はたして同じボールとバットを使っているのかと勘繰りたくなるほど、他の選手とは次元が違った。ホームベースからはるか遠く、どこまで飛んだかを視認して、ただ笑うしかない。この一発を見ただけで、「愛知に来たかいがあった」と思えた。

 中川のホームランがあっても試合は14対5で愛工大名電が8回コールド勝ちを収めるのだが、試合終盤にちょっとした事件が起きた。大量リードしているにもかかわらず、愛工大名電は最終打席の中川を敬遠したのだ。

 試合後に愛工大名電の倉野光生監督に敬遠の意図を聞いてみると、監督は表情を変えずにこう答えた。

 「本当は全打席敬遠したかったんです。すごいのは知っていましたから」

 松井秀喜(元巨人ほか)の「5打席連続敬遠」を思い起こさせる言葉の裏には、愛工大名電と桜丘という学校間の伝統やチーム力の差を超えた、中川大志という一人の逸材に対する敬意がにじんでいるように感じられた。

 その後、2008年のドラフト会議で楽天から2位指名を受けた中川は、1年目からファームで84試合に出場して292打席に立つなど、高い期待を受けて経験を積んだ。プロ3年目にはイースタンリーグ打点王、5年目にはイースタン本塁打王、打点王の二冠を獲得。しかし、膝の故障、守備への不安、外国人選手とポジションがかぶるなどの要因もあり、一軍出場機会は限られた。

 「未完の大器」のまま迎えたプロ7年目。5月10日のソフトバンク戦、0対10と惨敗ムードが漂うなかでヤフオクドームの左中間スタンド中段に放った特大のプロ第1号に、あの秋の愛知県大会で見た大アーチが脳裏に蘇ってきた。

 今のところ「中川大志」といえば、同姓同名のイケメン俳優が検索上位に来るのが現実だ。だが、今シーズンが終わる頃には「こんな選手がいるからプロ野球は面白い」――そう思わせる存在になってほしいと願っている。

 ◆菊地選手(きくちせんしゅ) 1982年生まれ、東京都出身。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。プレーヤー視点からの取材をモットーとする。著書に『野球部あるある』シリーズがある。

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