巨人のスピードスター 片岡が語る300盗塁の極意「2つのS」

[ 2015年4月28日 08:10 ]

架空のベースを1メートル奥にイメージしてスライディング。勢い余って足はベースを通り過ぎることも

 巨人の片岡治大内野手(32)が16日のDeNA戦(横浜)の5回に二盗を決め、通算300盗塁を達成した。到達は29人目。名球会入りできる2000安打達成の44人より少なく、まさに難関だ。50メートル走のタイム6秒3は球界トップクラスには見劣りする。塁間で戦う武器は、試行錯誤を重ねた2つの「S」――。イケメンスピードスターの盗塁の秘けつに迫った。

 一般的に盗塁を成功させる要素として「スタート」「スピード」「スライディング」の「3S」が必要といわれる。これについて、片岡は明確に順位をつけている。

 「僕の場合、1番はスタート。次がスライディングですね」

 26日ヤクルト戦(神宮)での成功で通算302盗塁(今季7個目)に数字を伸ばした。西武時代の07~10年は4年連続盗塁王。走りでスター選手に飛躍したが、04年ドラフトで東京ガスから指名した西武の期待は、意外にも足より打撃の方にあったという。

 当時の編成部部長だった九州国際大付・楠城徹監督(64)は「バッティングを期待して獲った」と明言。「(走力は)遅いということはなかったけど、プロの中では普通。打力、次に守備、最後に走力という感じで評価していた」と振り返った。

 50メートル走は6秒3。5年連続盗塁王の元阪神・赤星憲広氏(本紙評論家)の5秒6や、ソフトバンク在籍時に片岡と盗塁王を争ったブルージェイズ・川崎の5秒8とは差がある。プロ野球選手としては標準的な足の速さの片岡は「スタート」と「スライディング」を突き詰めて、「スピード」の違いを埋めようとした。

 (1)スタート

 腰を落とし、両腕はだらりと下げて「ブラブラさせる」。構えをつくり、いざ――。「スタートと同時に思いっ切り右肘を引いて、逆に左肘は高く上げる。体全体のイメージとしては飛ぶイメージ。でも低く、です。これが難しいんですけど、低く飛ぶ」。この1歩目が「行ける、行けない(成功、失敗)がだいたい分かる」と命運を握る。

 空気抵抗を小さくするには重心を下げたまま加速したい。右肘と左肘は「低く飛ぶ」テークオフに必要な両翼だ。蹴り出す足の力で上体はおのずと浮こうとする。「重心を上げないため」に右肘を目いっぱい引き程よい前傾姿勢を維持するために左肘を上げる意識でバランスを取る。

 11年キャンプでは一、二塁間を結ぶラインから右足を約1足分、後ろに引くことで、1歩目を二塁へ向けて真っすぐ踏み出す工夫を語っていた。一気にトップギアに入る片岡の「飛行」を、日本ハムの捕手・大野は「やられる、というスタートを切る」と証言。西武で同僚だった炭谷も「速くて、うまい。捕手としては焦る」と語った。では、盗塁のゴールには、どんな秘密があるのか。

 (2)スライディング

 片岡は、ベースぎりぎりまで走ることをやめない。頭に架空のベースを描いているという。本来のベースより1メートルほど奥。そこを目掛けて滑るから、本物に対しては上から跳び蹴りをするような格好になる。勢い余って足はベースを通り過ぎ、腰の辺りがベース上に来ることが往々にしてある。豪快。狙って、この豪快さを出している。

 「スライディングは審判の方に与える印象も大事になってくると思っています。できるだけ余裕を持って到達したように見せたい。だから、できるだけ鋭く、豪快に。そのために、ぎりぎりまで走って、一気に滑るような形になるんです」

 極めて微妙なタイミングの時にセーフの判定を引き出すのもまた、技だ。オリックス・伊藤は「スライディングが強い」と印象を語る。「起き上がるのも早い。審判に塁に着いている、という錯角を起こさせるのもあると思う」とはソフトバンク・細川の弁だ。

 試行錯誤を重ねて会得した盗塁術だが終着点ではない。「少しずつ、改良を重ねていくことになると思います」。その目は、56、57年に阪急、62年に中日で盗塁王を獲った河野旭輝以来、史上2人目の両リーグタイトルをにらんでいる。

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