松井氏 ベンチの隅で記念撮影「イチローさんの背中を追いかけながら来た」

[ 2013年7月30日 06:00 ]

<ヤンキース・レイズ>引退式後、最後の“ピンストライプ姿”で始球式を行った松井氏。右は先発・ヒューズ

ア・リーグ ヤンキース6―5レイズ

(7月28日 ニューヨーク)
 運命の糸が交錯した。巨人、ヤンキースなどで活躍しレイズを最後に昨年引退した松井秀喜外野手(39)が28日(日本時間29日)、古巣のヤ軍と1日限定のマイナー契約を結び、チームの一員としてヤンキースタジアムでの引退式に臨んだ。たった1日だけだがイチロー外野手(39)と初めてチームメートとなりピンストライプ姿で最初で最後の共演。イチローは式典後のレイズ戦で今季初の4安打を放って勝利に貢献しイチロー流に松井を祝福した。

 最初で最後。日本球界が世界に誇る2人のスーパースターが、ついに同じユニホームに袖を通した。始球式に備えて松井がベンチで待機していた時だ。通路からイチローが現れる。ピンストライプの背番号55と背番号31。1学年上のイチローから手を差し出し、握手を交わした。

 イチロー ああ、久しぶり。

 松井 きょうはチームメートですね。

 その場で記念撮影。そこはベンチ隅のファンの目に届かない場所だった。2人が球場で対面するのは、昨年7月22日以来。その日はレイズの松井にとって結果的に現役最後の出場試合となり、イチローはこの試合を最後にマリナーズを離れ、翌日には松井が愛したヤンキースへ移籍した。二度と交わることがないと思われた2人の運命が、371日後にヤンキースタジアムで重なった。

 松井へのユニホームの贈呈などが行われた引退セレモニー。そこにイチローの姿はなかった。「テレビで見ていました」。松井への配慮、そして自身のプライド。イチローはあえて輪には加わらず、球場に持ち込んでいる専用のトレーニングマシンで黙々とルーティンをこなしていた。

 引退式を終えて松井が去ったグラウンドで、イチローは打ちまくった。今季初の1試合4安打。日米通算4000安打に残り16本に迫るとともに、松井の記念日をバットで祝福した。試合後、報道陣に囲まれると「いやいや、僕はいいです。きょうはジーターさんと松井さんでいいんじゃないですか」と謙遜した。

 同じ右投げ左打ちの外野手だが、打者としてのタイプも野球哲学も性格も異なる。ワールドシリーズMVPの松井と10年連続200安打のイチロー。同じチームに所属することもなく、2人の野球人生はすれ違いが続いた。06年WBC参加をめぐっても、互いに歩調を合わせるはずが、最終的にイチローだけが出場。松井が一部ファンに非難されたこともあった。

 しかし、セレモニー後にテレビの中継にゲスト出演した松井は言った。

 「個人的には、イチローさんの背中を追いかけながら来たと思います。僕にとっては大きな存在でしたね」

 2人にしか分からない空気と距離感は、確かに存在する。スタイルや考え方は違っても目標、ライバルであり続けた。イチローも、昨年末の松井引退に際して「ヤンキースでプレーして、あらためて松井選手が残してきた実績がいかに重く、難しいことかを知った」と称えた。

 感傷的なセレモニーに彩られたヤンキースタジアムは、観衆4万7714人で今季3度目の満員札止め。イチローは言った。

 「これだけの人が集まったのは凄いことだと思います。彼のことを見に来るのは凄いことです。いろいろおめでとう」

 歴史的な共演。2人はそれぞれの形で主役を演じ切った。

 ※スポニチ本紙では、松井氏がヤンキースと1日契約を結んだために他の選手と同様に、30日付は敬称を省略しました。

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