772球力尽く…安楽 初3連投で5回7失点「5連投できる体力を」

[ 2013年4月4日 06:00 ]

<浦和学院・済美>応援団にあいさつを終え、泣きながら引き揚げる済美・安楽(右から3人目)

第85回センバツ高校野球大会最終日決勝 済美1―17浦和学院

(4月3日 甲子園)
 赤く染まる済美・安楽の両頬に涙が伝った。7回の攻撃前に組まれたベンチ前での円陣。上甲正典監督から告げられた言葉は降板を意味していた。「一番大事なのは体。もう無理しなくていい」――。胸に去来するさまざまな感情を16歳は制御できなかった。

 「力不足です。腕も振れず、ボールも垂れていた。夏へ向けて、3、4、5連投できる体力をつけないといけない」

 剛球が影を潜めた。自身初の3連投で粘りが利かなかった。最速は142キロ止まり。5回は5連打を含む8安打を浴び、7点を失った。1イニング7失点は初の屈辱。志願した6回のマウンドでさらに2点を失った。

 平井(オリックス)、福井(広島)らを育てた名将でさえ、育成に頭を悩ませた。「(これほどの大器に)今まで遭遇したことがない。どうこしらえていけばいいのか…」。高校進学時は全国の強豪23校から声がかかった。済美を選択したのは地元への恩返しと指揮官への信頼感だった。

 2人の絆は深く、固い。ある日の練習日。軽く投げろと言われていた二塁送球練習でめいっぱい投げたことがあった。すぐ怒声が飛んだ。「一度、肩肘を痛めると、おまえの夢であるプロは終わるんだぞ」――。深い愛を感じた。「監督さんについていけば間違いない」。160キロを目指す2人の挑戦が始まった。

 涙は乾いた。目標は定まった。「夏、春、夏とあと3回チャンスがある。浦和学院から優勝旗を取り返したい。3回のうちに上甲監督を胴上げしたい」。初戦の広陵戦で152キロを計測。済々黌戦では右手首に打球が直撃した。5試合計772球の力投。今大会の話題をさらった新怪物は胸を張って聖地を去った。

 ▼安楽の母・ゆかりさん 疲れがあったと思います。お疲れさまと言ってあげたいです。ここまでよく頑張ったと思います。

 ≪772球は平成以降最多≫センバツで1大会通算700球以上は、04年Vの済美・福井が705球、準Vの愛工大名電・丸山が765球を投げて以来。772球は平成以降の決勝進出校投手では最多。なお、夏には06年早実・斎藤が7試合で948球を投げている。

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