【野球のツボ】重盗失敗は「指示徹底しなかったコーチの責任」

[ 2013年3月21日 16:25 ]

厳しい指摘が多かったWBC準決勝での重盗失敗。一塁走者の内川(左)が一、二塁間でタッチアウトとなる(右はモリーナ)

 あのシーンは今でも多くの野球ファンの頭に残っていることだと思う。WBC準決勝のプエルトリコ戦。2点差で迎えた8回1死一、二塁。4番・阿部の打席で、2球目に仕掛けたダブルスチールが不発に終わり、飛び出した一塁走者・内川がタッチアウト。敗戦を象徴する場面となってしまった。

 帰国後もいろいろなテレビ、新聞でこの場面について、厳しい指摘を受けている。「あの状況で行けたら、行け、というのはない」「仕掛けるなら、このボールで行けと指示すべき」「選手任せの采配だ」「阿部の一打に期待すべきだった」などなど。

 試合に負けたのは、まぎれもない事実。スタッフとしては、弁解や言い訳をするつもりはない。ただひとつ、このコラムで説明をすることを許してもらえるなら、「選手は悪くなかった。指示を徹底できなかったベースコーチの責任」ということをはっきりさせていただきたい。

 土壇場でのダブルスチールは決して思いつきの作戦ではなかった。マウンド上の左腕ロメロのモーションが大きく、三盗を仕掛けても大丈夫だということはスコアラーからの報告で、スタッフの頭の中にあったものだ。相手のスキを突く作戦ということで、最初から想定したもの。私も一、二塁となったところで、「狙わせます」とベンチに確認もしていた。足を絡ませて、一気に同点を狙う。そのためのダブルスチールだった。

 狙い通りに井端も内川もスタートを切った。ただ、井端は「このまま行くとアウトになる」と判断し、自重。内川はそのまま走り、タッチアウト。2人の判断も間違いではない。緒方一塁ベースコーチとも話したが、「無理していくな。ストップというケースもある」と内川に事前に確認をしておくべきだった。その点がベースコーチとしての責任だ。「行けたら、行け」という表現が誤解を招いているが、決して選手任せの作戦ではなかったことは強調したい。

 試合としては、それまで先発を含め、相手投手を攻略できなかったことが響いた。なかなか打てない、となると、足を使って揺さぶりをかけるしかなかった。その作戦が裏目に出たということも、一発勝負の国際試合の緊張感、そして日の丸を背負う重圧の表れだったと今は感じている。日本代表の課題については、また今後このコラムで取り上げていきたい。(WBCコーチ・高代 延博)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務める。浩二ジャパンの頭脳。

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2013年3月21日のニュース