【野球のツボ】金本はなぜ「鉄人」になりえたのか

[ 2012年12月27日 11:25 ]

高いプロ意識が「鉄人・金本」を作り上げた

 2012年のプロ野球を振り返って、個人的に一番のニュースだと思うのは、阪神・金本知憲外野手の引退だ。日本で5球団コーチを経験してきたが、金本ほど第一印象から変わった選手はいない。そして、金本ほど意識の高い選手はお目にかかったことがない。まさに稀有な選手だった。

 広島コーチ時代の92年のキャンプが金本との出会いだった。東北福祉大からドラフト4位での入団。だが、打撃は全くダメ、守備も走塁も一から教えないといけないレベル。それがルーキー時代の金本だった。

 三村敏之監督(故人)と若手選手の通信簿をつけていたのだが、すべてが平均点以下。「いいところが見つからない」と苦笑したものだ。モノになるかどうかは半信半疑だったが、練習はとことんやった。走塁でも二塁でのスライディングのときに、姿勢もリズムも悪いから、ベース手前で失速する。「イチ、ニイ、サン、スライディング」の反復練習を何度も何度も取り組ませた。ふくらはぎを痛め、監督が練習メニューから外した日も、テーピングをグルグル巻きにして現れ「少しだけお願いします」とノックを志願。気が付けば、30分以上のノックになったこともあった。うまくなりたい、試合に出たいという意欲は、誰にも負けなかった。それが「鉄人」を作ったのだ。

 「思ったところに投げてプロは当たり前」「体のことでゲームに出られないのは最低のこと」と口すっぱく言ってきて、本人もそれが当然のことと思ってきただけに、思うように投げられなかったこの数シーズンはさぞかし悔しく、歯がゆい思いをしてきたことと思う。

 引退発表の会見で、金本は「三村さん、山本一義さん、高代さんの3人に感謝したい」と私の名前を出してくれた。他にも多くの指導者と巡り合った中で、こう口に出してくれたことは、コーチ冥利に尽きる。誰よりも努力する選手の手伝いが出来た。その出会いにも感謝している。会見後、金本は「限界でした」と電話口で話していた。近いうちに、じっくりと話をしたいと思っている。

 阪神は金本の抜けた穴を福留、西岡の補強でカバーしようとしている。だが、金本のような選手はなかなか現れない。金本をもう1年残して、福留、西岡に「鉄人エキス」を注入してからバトンタッチしていれば…の思いを私はまだ捨てきれない。(WBCコーチ・高代 延博)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務める。浩二ジャパンの頭脳。

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2012年12月27日のニュース