マエケン あの日の失投を教訓に大記録「意識して投げないと後悔する」

[ 2012年11月30日 10:35 ]

野球人 前田健太(上)

 いまだ記憶に鮮烈なノーヒットノーラン。前田健にとって人生初の快挙は4月6日、DeNA戦(横浜)だった。プロ野球史上74人目、85度目、2リーグ制以降では史上最速となる開幕7試合目での記録。それは右腕の12年シーズンを濃密なものにする序章となった。

 「バロメーターは真っすぐ。力を抜いて150キロが出る時は調子いい。今季一番、プロ生活でも上位に入る出来でした」

 当日のブルペン。ベテラン捕手・倉も「今まで経験のない力強い球質だった」と証言した。試合に入ると、右腕は完封を確信したという。“この調子で点を取られちゃダメだ”と、自身にプレッシャーをかけた。それでも8回までは“どうせ無理や”と無欲だった。

 「終盤まで無安打に抑えたことは何度かある。でも、そのたびに打たれた。8回まではボク、運だと思うんです」。8回2死走者なし。「内野安打だと思った」藤田のボテボテのゴロを、遊撃手の梵がダッシュよく処理した。運を感じた。

 同時に昨年10月25日、ヤクルト戦(神宮)が脳裏をよぎった。9回1死まで無安打。倉は外へツーシームを要求したが、首を振って自信のあるスライダーを選んだ。それが内角高めに入り、藤本に左翼線へ運ばれた。「もっと大事に、厳しくいくべきだった。後悔しました」。なぜ、内角に投げてしまったのか。バットに当たらない球で勝負すればよかったのでは…。9回は経験が生きた。低く、際どく。最後はチェンジアップで梶谷を投ゴロに仕留めた。

 「8回までは運でも9回は違う。記録を意識して投げないと後悔する。実力で(記録を)勝ち取りにいかないといけない」。昨季の苦い経験から得た教訓だった。

 体の変化が背景にあった。昨季、トレーニング施設を持つプロテインメーカーと契約。「ウエートトレを本格的にやってみた」結果、73キロだった体重は今季80キロにまで増えた。無論、体の切れは損なわれていない。

 快挙当日、右腕は「きょうは80~90球で終わったと思った」とコメントした。精密なフォームから投げた実際の球数は122球。「軽く投げていたので、疲れを全然感じなかった。ウエートトレの成果だと思います」。シーズンへの確かな手応えを感じ取っていた。

 6日後の4月18日、同じDeNA戦。8回を3安打零封し、本拠地のファンに2勝目を届けた前田健は「今年のカープはやります!」と高らかに宣言する。パワーアップを自覚し、投手陣には人材がそろう。だからこそ、1カ月後の“負け方”には危機感を覚えた。

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2012年11月30日のニュース