“元本拠”でもイチらしく、初打席で安打&盗塁

[ 2012年7月25日 06:00 ]

<ヤンキース・マリナーズ>3回、ヤンキースでの初打席を前に、ヘルメットを脱いでファンにあいさつするイチロー

ア・リーグ ヤンキース4―1マリナーズ

(7月23日 シアトル)
 愛されていたからこそのスタンディングオベーションだった。3回の移籍後初打席。背番号「31」のグレーのユニホームに身を包んだヤンキース・イチローが打席に向かうと、セーフコ・フィールドのマリナーズファンが総立ちとなり、惜しみない拍手を送った。

 「11年半、本当に長い時間でしたから。いろいろ思い浮かぶかなって想像してたんですけど…。ああいう反応を目の当たりにすると、もう(頭の中が)真っ白になる。ただあの瞬間に感激した」

 スタンドには、マリナーズの一時代を築いたスターとの別れを惜しみ、「THANKS ICHI」、「SAYONARA SUZUKI」のプラカード。想像をはるかに超えた光景に、イチローは思わずヘルメットを外すと、一塁側へ、そして外野へ向けて深々と丁寧にお辞儀を返した。

 そして、1ストライクからの2球目。92マイル(約148キロ)のツーシームを中前へはじき返した。同球場で1232本目の安打。マリナーズファンへの惜別を込めた打球は中前に抜けた。「それまでは凄く重く、自由自在ではなかった。あの瞬間に解き放たれたという感触でした」。一塁ベース上で大きく息を吐き出すと、すぐさま二盗も決めた。3回にはレーザービームも披露した。ジェイソの右前打に突っ込み、二塁からの生還を狙ったアクリーを刺そうと試みる。アウトにはできなかったが、伸びやかなスローイングに再びスタンドが盛り上がった。試合後は名門球団の一員としてプレーし、持ち味を発揮できたことに安ど感と充実感をにじませた。

 日本人大リーガーとしては前例のないトレード成立当日の古巣との対戦。試合前には、立ち入ったことのない三塁側クラブハウスへ慌ただしく引っ越した。ロッカーは試合後も煩雑なままだった。「僕のロッカーがこんな散らかっていること、ないですからね。バタバタで、ハラハラでしたから。このごちゃごちゃの中で一応プレーできた。ちょっと自信になったかな」と振り返った。

 野球は筋書きのないドラマのはずが、ウイニングボールもイチローのグラブに収まった。最後の打者の右飛を捕球すると、集まった外野陣とグラブを膝下で合わせるヤンキース式の勝利の儀式も味わった。別れと出会い。「特別な日。一生思い出に残る日」。何度も視界がにじんだ一日が終わった。

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