イチロー 母国の特別な開幕戦4安打「格好はついたかな」

[ 2012年3月29日 06:00 ]

<アスレチックス・マリナーズ>4回無死、ヒット性の当たりを遊撃手に好捕されたイチローだが全力で一塁へ走り2打席連続安打に

ア・リーグ マリナーズ3―1アスレチックス

(3月28日 東京D)
 大リーグの今季開幕戦、アスレチックス―マリナーズが28日に行われ、メジャー12年目で初めて日本で開幕を迎えたマリナーズのイチロー外野手(38)は「3番・右翼」で出場し、初回に遊撃内野安打で今季初安打を記録すると3打席連続安打。さらに延長11回にはとどめを刺す中前適時打を放った。イチローが「特別の日」と称した一戦で、自身初の開幕4安打。昨季にシーズン200安打が10年連続でストップした天才打者が、母国で自身の復活に向けて第一歩を刻んだ。

 「特別な日」だから、いつもとは違う衝動が湧き起こった。ゲームセットの瞬間。右翼席に向かって、イチローが右手を大きく振る。東京ドームを埋め尽くした4万4227人の観衆のボルテージは最高潮に達した。
 「(日本での開幕戦は)一生で(28、29日の)2試合しかないと思っている。その瞬間を刻みたいという思いからだった。足を運んでくれた人もおそらくそういう気持ちだったと思うので、それを共有したかった」
 メジャー12年目にして、初めて迎える母国での開幕。過度の期待を背負うのは当然のこと。百戦錬磨のイチローでさえ「特別な日。アメリカでの開幕とは違う種類の緊張感。恐ろしい緊張感だった」と、期待に応えなければとの重圧は、これまでの開幕日に経験したものとは違っていた。

 それでも、試合に入れば、期待に応えてしまうのが、イチローのイチローたるゆえんだ。初回2死。無数のフラッシュを浴びて、打席に入る。「こういう機会をつくってもらい、自分がその中心にいる。見られてなんぼですから」。主役として一身に注目を集める状況はイチローには無上の幸福。開幕戦は、その喜びをプレーで表す場となった。

 フルカウントから外角のツーシームにバットを合わせた打球は、遊撃内野安打。開幕戦の第1打席で安打を放つのは7年ぶり。ここから怒とうの3打席連続安打を放った。さらには盗塁にはつながらなかったが、初、4回に出塁した際には次打者スモークの打席で計3度一塁を蹴った。どれも完璧に投手のモーションを盗んでいた。

 ハイライトは延長11回。1点を勝ち越した直後の1死二塁からダメ押しの中前適時打。中軸としても確かな存在感を発揮した。ただ、「一番大きかった」としたのは延長11回1死一塁でアクリーの二盗をアシストした場面。甘めの真っすぐをわざと見逃し、好スタートを切った同僚を得点圏に進めた。打線のつながりを意識し、最後は自らのバットでとどめを刺す。イチローならではの3番打者像だった。

 自身初の開幕戦4安打。開幕戦の通算安打数は17となり、ケン・グリフィーの14を抜く球団新記録。「僕にとってメジャーリーガーの象徴」と話していた憧れの存在を超えた。

 03年に予定されていた開幕戦は、イラク情勢の悪化で直前に中止。それから9年の時が過ぎ、今年は東日本大震災の復興元年。イチローの雄姿が被災者を勇気付けた。

 「格好はついたかな」。クラブハウスのロッカーに腰かけたイチローが、ほんの少しだけ表情を緩めた。連続200安打が途切れて仕切り直しのシーズンに、最高の形で滑り出した。 

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2012年3月29日のニュース