石巻工・阿部主将「野球の絆」込めた感動の選手宣誓

[ 2012年3月22日 06:00 ]

<センバツ高校野球 開会式>石巻工・阿部翔人主将は元気良く選手宣誓を行なう

第84回選抜高校野球第1日

(3月21日 甲子園)
 日本中に感動、勇気、そして笑顔を――。東日本大震災で甚大な被害を受けながら、21世紀枠で選出された石巻工(宮城)の阿部翔人主将(3年)が開会式で選手宣誓を行った。楽天・嶋基宏捕手(27)が昨年4月2日のプロ野球慈善試合でのスピーチで使った「見せましょう、野球の底力を」の名フレーズを引用。被災地への思いを寄せた感動的な宣誓で復興元年のセンバツが幕を開けた。

 阿部主将は真っすぐ前を見つめた。現状をありのままに伝え、復興に向けて進み出している被災地への希望のメッセージを2分15秒に込めた。

 「苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っている」

 前日のリハーサルは胃腸炎のため欠席し、ぶっつけ本番だった。しかし「不安もあったけど、楽しんだもの勝ち」とつかえることなく、「100点満点」と笑った。

 石巻工にも津波が押し寄せ、校庭は水没。校舎には住民ら約800人が孤立した。部員も震災から2日間はカーテンを体に巻いて寒さに耐え、少量のビスケットなどを分け合って空腹をしのいだ。阿部主将も自宅が全壊し、小学校時代のチームメートを亡くした。そんな苦難を乗り越えて甲子園切符をつかんだ石巻工は復興のシンボル。「こういう時だからこそ、感動と勇気と笑顔というフレーズが日本中に届いてほしい」。阿部主将にしかできない宣誓だった。

 震災直後だった昨年は創志学園(岡山)の野山慎介主将の選手宣誓が共感を呼んだ。そして、今年。出場32校による抽選で1校だけに与えられる選手宣誓を引き当てた阿部主将は原案を考え、松本嘉次監督とナインがキーワードを出し合った。楽天・嶋がスピーチした「見せましょう、野球の底力を」の言葉も引用。松本監督は「宮城の思いが詰まってる」と説明した。「絆」という言葉を付け加えたのは、震災を通して実感したのが「野球の絆」だったからだ。

 昨年5月に春日丘(大阪)からはボールが贈られ、その縁で今大会前に練習試合が実現。地元の社会人野球の強豪・日本製紙石巻は室内練習場がない石巻工のために練習場を提供してくれた。「どん底から手を差し伸べてもらった支援に感謝」と話す阿部主将の言葉には実感がこもった。

 開会式後は兵庫県西宮市内で22日の神村学園(鹿児島)戦に向けて約3時間の最終調整。「震災から“諦めない気持ち”を掲げてここまでやってきた。それを発揮するのが甲子園。笑顔のプレーを届けたい」。夢舞台で感謝の気持ちを表現する。

 【選手宣誓全文】

 東日本大震災から1年、日本は復興の真っ最中です。被災された方々の中には、苦しくて、心の整理がつかず、今も当時の事や亡くなられた方を忘れられず、悲しみに暮れている方がたくさんいます。
 人は誰でも答えのない悲しみを受け入れることは苦しくてつらいことです。しかし、日本がひとつになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています。
 だからこそ、
 見せましょう、日本の底力、絆を。われわれ、高校球児ができること、それは全力で戦い抜き、最後まで諦めないことです。今、野球ができることに感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。

選手代表
 宮城県石巻工野球部主将
  阿部翔人

続きを表示

2012年3月22日のニュース