プロで3度日本一の名将 アマでも頂点へ

[ 2011年5月28日 11:48 ]

 プロで頂点を極めた名将が、大学野球でも頂点へ――。元広島監督の古葉竹識監督(75)が東京国際大の監督に就任して4年目。歓喜の瞬間を目前にしている。28日からの東京新大学野球春季リーグの杏林大戦(市営大宮など)で勝ち点を奪えば創部47年目で初のリーグ制覇、全日本大学選手権出場が決まる。プロの優勝監督が大学球界でも優勝すれば史上初の快挙。万年Bクラスだった広島を3度の日本一に導いた名将が、再び大きな花を咲かせようとしている。

 【耐えて勝つ】
 柔和な表情でも眼光は鋭い。背筋をピンと伸ばしたまま、ベンチに座ることなく何時間も指導を続ける。エネルギッシュな姿勢はとても75歳とは思えない。古葉監督は広島監督時代から変わらない丁寧な言葉遣いで、大一番への意気込みを語った。

 「大決戦ですね。ここまで来たら絶対に勝ちたいと思う。でもプレッシャーはないですよ。やれないことは、急にやろうとしてもできません。今まで練習してきたものを出すだけ。やれることをやるだけです」

 当時副理事長だった倉田信靖理事長・総長(73)から「野球で人気を集め、伝統が浅い大学をもり立てたい。心中するつもり」と口説かれ、強化指定クラブの硬式野球部監督に招へいされた。08年2月に野球殿堂入りしたプロ監督としては、初となるアマチュア球界の指導者となって4年目。当時の新入生が主力の4年生となった勝負の年に快進撃を見せている。就任直後に目についたのは四球や失策、記録に表れないミスからの失点。「投手、守備が良ければ点は取られない。それはプロも大学も同じなんです」。座右の銘はプロ時代から変わらない「耐えて勝つ」。投手を中心とした細かい守りの野球を前面に押し出すのもプロの時と同様だ。

 【1球への集中力】
 最初に着手したのは「1球への集中力」。意識改革だった。技術を飛躍的に伸ばすのは難しくても、ミスを減らすための基本の反復練習は誰でもできる。例えばキャッチボール。漠然と捕って、投げるのでは進歩はない。「試合で動いているボールは1球しかない。どう対応するか、常に考えていないと」。捕球時の足の運び方、正確な送球。練習から素早くできなければ試合でできるわけがない。それは打撃でも同じ。基本を徹底して叩き込んだ。

 【対話路線】
 「カープの時は二重人格とか言われましたよ。グラウンドに入ると鬼だった。でも今は時代が違う。なでるだけです」。鉄拳は封印しても迫力は十分。就任当初から部員150人以上の大所帯だったが、ミーティングでは約半分の選手が上の空だったという。そんな選手は前方に呼びつけ、言葉で叱りつけた。もちろん、厳しさは愛情の裏返し。プロとは違い、入学して4年間の短期間勝負となるが「入学して1年間は故障しない体づくりをさせる」と無理はさせない。「常に3、4年生が主力になるように」と長期的展望で指導してきた。

 【大学野球は人間教育】
 「施設は大学では日本一。恵まれ過ぎている」。電光掲示板付きのメーン球場、神宮と全く同じ素材の人工芝が敷かれる第2球場など約30億円かけて整えられた環境。勝つことが大学側への恩返しとなる。着実に力をつけ、昨秋は創価大から23年ぶりの1勝を挙げた。そして迎えた今季は4月16日からの創価大との開幕カードは1―0、3―2。まさに2試合連続で耐えて勝ち、85年の東京新大学リーグ加盟後、創価大から初めて勝ち点を奪取して勢いに乗り、4カード連続で勝ち越して首位を走る。

 同リーグは創価大、流通経大が長年2強として君臨してきた。その2大学以外の優勝となれば91年の東京学芸大以来20年ぶりとなる。「大学野球で一番大事なのは人間教育。社会に出て、評価されるように礼儀作法とか厳しく言ってきた。その中でリーグ優勝できれば一番いい。やるからには日本一になりたい」。種をまき、じっくり水を与えてきた。花が咲く瞬間は、もうすぐ見られる。

 ◆古葉 竹識(こば・たけし、本名・毅)1936年(昭11)4月22日、熊本県出身の75歳。済々黌(せいせいこう)、専大、日鉄二瀬を経て広島に入団。63年には長嶋茂雄(巨人)に次ぐ打率・339でリーグ2位、盗塁王を2回獲得した。70年から2年間、南海でプレーした後、引退した。72~73年は南海、74年は広島でコーチを務め、75年にジョー・ルーツ監督が15試合で帰国した後を受け広島球団史上初のリーグ優勝を達成。79年から日本シリーズを連覇するなど3度日本一に輝いた。87~89年は大洋(現横浜)監督。80年に正力松太郎賞受賞、99年に野球殿堂入り。08年に東京国際大監督に就任。

 ▼東京国際大 1965年、東京商科大として創立。86年に現校名となる。埼玉県川越市の第1、第2キャンパス、東京都新宿区に早稲田キャンパスがある。商、経済、言語コミュニケーション、国際関係、人間社会の5学部。約6000人の学生が在籍。近年では運動部の活動を強化。女子ソフトボール部は元日本代表監督の宇津木妙子さんが総監督、女子サッカー部は元サッカー女子日本代表の大竹七未さん、硬式テニス部は元プロテニスプレーヤーの佐藤直子さんが監督を務めている。

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2011年5月28日のニュース